みんなで守ろう!地域の安全
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私は、今から20年前、横浜市の中心部繁華街の真ん中にある夜間高校に異動しました。そして時を同じくして「夜回り」を始めました。「夜回り」、聞き慣れ ない言葉だと思います。ただ夜11時ぐらいから、ピンクビラやエッチな看板を片づけながら、子どもたちのたむろする公園や繁華街を回り子どもたちに声をか け帰らせるというだれにでもできることです。私は、この「夜回り」を通して一万人以上の様々な問題を抱えた青少年と関わり、ともに生きてきました。
私は、学校でも夜の町でも子どもを叱ったり、怒鳴ったり、あるいはなぐったりしたことがありません。私は、子どもを怒ることかできません。それは、子ども たちが花の種だと考えているからです。どんな花の種も、植えた人間がきちんと育てれば、必ず時期が来れば美しい花を咲かせます。これは、子どもたちも同じ です。親が、教員が、地域の大人たちが、マスコミまで含めた社会全部が、子どもたちを慈しみ愛し丁寧に育てれば、必ず時期が来れば花を咲かせます。もし花 を咲かせることなく、しぼんだり枯れたりする子どもたちがいたなら、それは大人によってそうされてしまった被害者です。私はいつも、子どもたちに寄り添っ て生きてきました。
この私が最初に壁にぶつかったのが、シンナーや覚せい剤などの薬物の問題でした。私は、20年前にマサフミというシンナーを乱用する一人の少年と知り合 いました。我が家でともに生活し彼を薬物の魔の手から救おうとしました。しかし、彼は、シンナーの乱用を繰り返し知り合って3ヶ月後事故死しました。彼の 葬式を忘れることができません。火葬場ではほとんど骨が残りませんでした。彼の母親と泣きながら彼の灰を骨壺に入れました。薬物を止めることができないの は、「依存症」という病気であることを、一人の少年の死から学びました。それからの20年間は、薬物との戦いの日々でした。今まで5000人以上の薬物を 乱用する青少年と関わり、哀しいですが44人の子どもたちを失いました。
今、この薬物が猛烈な勢いで中高生を中心とする子どもたちの間に広まっています。今専門家の間では、小中高校生の約半数がこれからの人生で身近で薬物に ついて見聞きし、25パーセントが誘われ、2.6パーセントが使用するだろうと言われています。
私は、2004年2月に「夜回り先生」という新しい本を出版しました。この本は、私の子供たちへのメッセージとして書いたものです。「いいんだよ、過去 のことは・・・。まずは、すべてを受け入れ明日に向かって一緒に生きていこう」という想いを込めました。そして、一人でも多くの悩んでいる子供たちと関わ れるように、メールアドレスを本に載せました。その結果は、約七年間で六十二万通のべ二十一万人からの相談メールでした。
確かに、私の専門である薬物や非行についての相談もありましたが、そのほとんどがリストカットやOD(処方薬等の過剰摂取)、自殺願望、引きこもり、い じめで苦しむ子供たちからでした。これらの子供たちに共通しているのは、親や教師から責められ続け、またリストカットやOD、引きこもりを続ける自分自身 を責め続けていることでした。ほとんどのメールには「こんな私でもいいんですか」という問いがついていました。そして、必ずと言っていいほど最後は「こん な私でも生きていていいんですか」という重い問いで終わっていました。私は、これまで「夜回り」を通して、昼の世界すなわち家庭や学校からドロップアウト させられ、夜の町で非行に入ったり薬物の魔の手や悪い大人の餌食にされた子供たちと関わり、その更生のために生きてきました。私にとっては、彼らこそが昼 の世界から夜の世界に沈まされた現在の社会の犠牲者で、守らなくてはいけない存在だと思っていました。私は、もっと多くの子供たちが夜の闇の中で苦しんで いることを見逃していました。「夜、眠れない子どもたち」との出会いでした。
今、私たちの国、日本で、数多くの子どもたちが苦しんでいます。明日を見失い、自暴自棄になり、夜の町に沈んでいったり、薬物に救いを求めたり。こころ を閉ざし、不登校や引きこもりになったり。さらには、自分を傷つけ死へと向かっています。多くの大人たちが、この事実に目を向け、そして早急に対処してい かない限り、私たちの日本に明日はない。私はそう確信しています。