みんなで守ろう!地域の安全

文字サイズ:

ぼうはん日本

全国読売防犯協力会
〒100-8055 東京都千代田区大手町1-7-1
TEL.03-3216-9024 FAX.03-3216-7113
第3回
前田 雅英

防犯活動は功を奏した?

2008年12月05日

平成に入って、犯罪の発生状況は激動した。戦後に限っても日本社会は既に60年余を経過した。その前半は刑法犯の総量は減少し、後半は増加したといってよい。しかし、より細かく見ると、犯罪認知件数が、平成15年から急速に減少に転じたのである。平成14年以降「日本の犯罪・治安状況は好転した」ということが可能となったように思われる。

刑法犯(業務上過失致死傷罪を除く)は戦後最も少なかった昭和48年の 1,190,534件から平成14年の2,853,769件まで、30年間で140%も増加していた。その結果、平成16年版の犯罪白書が指摘したように、刑務所が溢れ、刑事の裁判所は事件処理に追われることになったのである。昭和45年代後半からの刑法犯認知件数の上昇は、戦後前半期の犯罪率減少の10倍、すなわち年平均4%で上昇したのである。ところが、刑法犯の認知件数は、平成15年には増加が止まり、16年には8.1%、17年には11.5%、18年には9.6%、19年には6.9%と著しい勢いで減少を続けている。これは、戦後の日本社会で経験したことのない急速な犯罪減少である。この減少は、刑法犯の75%を占める窃盗罪の減少の影響が大きいことはいうまでもないが、凶悪犯等も減少したのである。16年には4.3%減であったが、17年には13.0%、18年には10.8%、19年にも10.5%と、大幅に減少した。そして、検挙率も好転の兆しが見える。戦後日本社会で凶悪犯は、ほぼ9割が検挙されてきた。ところが、平成14年には6割にまで低下したのである。しかし、平成18年は7割にまで回復した。

これらが徐々に国民の意識に浸透し、国民の治安に対する不安感の増大がどうにか止まったように思われる。平成18年12月に実施された内閣府の調査によれば、治安が悪くなったと思う国民の割合が、僅かではあるが、平成16年より減少した。そして、「安全で安心して暮らせる国」と思う割合が増大したのである。

しかも、平成14年から18年の犯罪の減少の割合は、全国でほぼ同じなのである。全国の犯罪率が2,239から1,605に減少した。各都道府県の平成14年と18年の犯罪率の関係を見るとどの県も、ほぼ3分の2になったのである。0.93という相関係数は、県ごとのバラツキの少なさを示している。

戦後刑法犯犯罪率・凶悪犯認知件数推移*犯罪率=人口10万人あたりの犯罪認知件数


なぜ、犯罪の認知件数が3分の2になったのか?

後から見ると、平成14年が、犯罪の増加のピークであった。そして、政府も犯罪対策閣僚会議を組織し、平成15年12月に「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を公表する。そこで、①身近な犯罪の抑止、②少年犯罪の抑止、③国境を越える脅威に対する対処、④組織犯罪対策、⑤治安回復のための基盤整備、の5つの重要課題が設定されたのである。そして、それらの政策は、緩急の差はあるものの、具体的に実施されていった。

その前提として、治安の悪化は国民にとって座視し得ない段階になっていた。平成12年には、社会を震撼させる特異・重大少年事件が相次いで発生したほか、路上強盗、恐喝、ひったくり等の「手っ取り早く」金銭を得る目的の路上での犯罪がさらに多発した。その結果、少年犯罪に正面から取り組むことが強く意識されることになった。

また、市民の安全と平穏の確保の視点から、ストーカー対策の推進、配偶者からの暴力事案への適切な対応の推進、犯罪防止に配慮した環境設計活動の推進、相談業務の強化、地域安全活動の推進、交番等の「生活安全センター」としての機能の強化等が図られた。

平成13年には、大阪府池田市内の小学校における多数殺人等事件、少年による凶悪事件の相次ぐ発生をはじめ、数々の重要事件が発生し、また、ストーカー事犯等の市民生活の安全と平穏を脅かす事案の多発等も、治安が悪化傾向にあると明確に認識された。

特に、路上強盗、ひったくり等の国民に身近な犯罪が増加し、来日外国人や暴力団等による組織的な犯罪が深刻化し、治安の悪化に対する国民の不安感の増大が指摘され、来日外国人犯罪や少年非行の深刻化に取り組む具体的施策が展開された。

平成14年に入っても、街頭において敢行される犯罪(街頭犯罪)や住宅等に侵入して行われる犯罪が急激に増加し続けた。増加傾向は特に、これらの犯罪に目立った。このような背景の下で、前述の平成15年12月に犯罪対策閣僚会議が策定した「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」が策定された。同計画においても、治安回復のための3つの視点として、水際対策を始めとした各種犯罪対策のほか、犯罪の生じにくい社会環境の整備と、国民が自らの安全を確保するための活動の支援を進めるべきことが示されたのである。そして、そのような対応の一環として、平成17年1月1日から刑法が改正された。

このような、国を挙げての取り組みの中で、前述の犯罪認知件数の大きな変化が生じたように思われる。特に、平成12年頃からの対策が、14年以降に結実したとも考えられよう。閣僚会議の行動計画に先行する形で動き出していた少年犯罪対策も、犯罪の増加を止めることに大きく寄与したといえよう。平成の初期は、過半数の刑法犯が少年によって犯されていた。ところが、平成16年には34・7%になり、平成19年には、28・2%にまで減ってしまったのである。ここ2~3年の少年の割合の低下は著しい。

犯罪率の低下は、さまざまな対策を総合した結果であり、例えば刑法改正による法定刑の引き上げ(厳罰化)や警察活動のみでは達成できない。国民の意識の変化が最も重要なのかも知れない。防犯団体の増加も目を見張るものがある。地域社会も徐々に目覚めつつある。この一連の取り組みによって、成果を上げることができたということは、きちんと認識すべきであり、自信を持つべきである。

しかし、人間の生活において犯罪を完全になくすことは不可能である。また新たな、問題も生じてくる。だからこそ、今後とも、国民全体がさらに一層努力して、安心して暮らせる社会を護っていかねばならない。


著書

戻る