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りんごの町の名物交番〈学園都市を守る〉

2015年11月取材

 

新青森駅から弘前駅に向かう途中、左側の車窓から、山頂に雪をいただく八甲田山の姿が飛び込んできました。新田次郎氏の小説を読まれた方も多いと思いますが、その原作を基に作られた映画を子どもの頃、家族全員で観たことを私は思い出していました。映画で観た厳しい冬の姿とは異なり、私の目に映るいまの姿(2015年11月30日)は、なだらかな稜線に優しさが満ちていました。「青森歩兵第五連隊の遭難事件のあった山には見えないなあ」――。正直、そう思いました。

しばらくすると、同行のFさんが突然カメラを構えました。その方向に目をやると、さっきまで晴れていた空に雲が低く垂れ込めています。その景色のど真ん中に、漢字の「山」を表すかのように、岩木山の頂上が力強く曇天を突き刺しています。やがて、電車は金属音を発しながら、JR弘前駅のホームに停まりました。

 

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――弘前市

 

弘前市提供

弘前市は津軽藩の城下町として栄え、春には必ずといって良いほど、メディアが弘前城公園の桜花の美しさを伝えます。また、「弘前ねぷた祭り」(写真参照)は毎年8月1日から7日まで行われ、国の重要無形民族文化財に指定されています。「ねぷた」の語源がわからなかったので、たまたま私たちが訪ねた弘前城内で大学生らしき若者に訊いたところ、「眠たい」にある――と教えてくれました。

 さて、江戸時代には津軽氏4万7千石の居城だった弘前城は、地震の影響で石垣が膨らみ、その修理のため「曳屋」という技術を駆使して天主を70メートルほど移動させています(写真参照)。修理完了は2021年頃を予定しているそうです。

 

             弘前市提供

「春に来たいなあ」――と、私たちが話していると、ポツリと小雨が落ちてきました。私たちは慌ててカバンから傘を出し、早足で歩き始めました。

 

――桝形交番を訪ねる

 

弘前警察署の紹介で文教地区にある桝形交番の取材に、私たちは向かいました。

交番を訪ねた私たちを迎え入れてくれたのは、勤続32年のベテラン川村秀樹警部補(58)でした。もちろん、当交番の所長さんです。

 

桝形交番について、早速、川村所長にお話しを訊いてみました。

【取材班】町の特徴をお教えください。

【川村所長】弘前警察署には19の交番・駐在所が配置されており、桝形交番はそのひとつです。特色を申しますと、管内に小学校6校、中学校3校、高等学校2校、大学3校を抱えています。一方で、コンビニエンスストアも13軒と数多く設置されているところは「学園都市」らしいといえると思います。

 

川村警部補は2009年(平成21年)に青森県警本部長から「職務質問準技能指導員」の指定を受け、若い警察官を対象に、職務質問の指導者としても活躍しています。不審人物と決定付ける際の着眼点や、職務質問の方法などを具体的に指導しているそうです。また、東京に発行本社のあるS紙が制定する「県民の警察官」として、同紙の紙面でも紹介され、表彰を受けたそうです。

 

【取材班】勤務体制はどうなっているのでしょうか?

【川村所長】桝形交番は4人勤務の3交代制です。13人でローテーションを組んでいます。私(川村警部補)は、通常は日勤で週に1回の泊まり勤務をこなしています。

【取材班】取り扱い犯罪事案はどのようなものが多いのでしょう?

【川村所長】犯罪の事案は一般の交番と同じように多岐にわたりますが、ここは「学生のまちの交番」といえるものとして、「万引き防止」を呼びかけるポスターが交番内に貼付されています。また、残念ながら自転車盗難も多い傾向にあります。

他方、住民の方々が積極的にボランティア活動に参加する状況に鑑みれば、「文教地区」の特長を現しているものと考えています。

  

――「アップル隊」って?

 

弘前警察署では、小学校や中学校、介護施設の高齢者に対する防犯教室や交通安全教室を実施しています。ユーモアを交えながら、15分から20分の寸劇を行い、防犯意識の高揚を図っているそうです。

 

【取材班】こちらを訪ねる前に弘前警察署でお聴きしたのですが、地元住民の方々に寸劇で防犯、交通安全を呼びかけているそうですね。

【川村所長】山田優輝巡査部長(36)が、「隊長」として劇団を取りまとめています。劇団名は「アップル隊」です。アップル隊は、隊長のほか12人で構成しており、桝形交番や隣接の交番、駐在所に勤務する現職警察官が参加しています。

交通安全を呼びかけているアップル隊

 出動要請があれば、隊長が召集をかけ、講演の内容を防犯告知にするか交通安全教育にするかなどを検討し、講演場所に向かいます。シナリオや役柄の設定はその都度決めます。本年はすでに16回出動しています(写真参照)。      

 

 

――こんな標語、あなたはご存知ですか?

 

「アップル隊」の繰り広げる寸劇では、いろんな標語が出てくるそうです。

①知らない人にはついていかない。知らない人の車にはらない。危険な目にあいそうになったらおごえを出す。怖い目にあったらぐ逃げる。何かあったらすぐらせる(いかのおすし)。

えの鍵を見せない。えの周りをよく見ること。うびんポストを確認する。れもいなくてもただいまと言う。かに入ったらすぐ戸締りをする(いいゆだな

まる。つ。びださない(とまと)。

④道路でそばない。うだん歩道を渡る。ちど止まって左右確認。んごうを守る。ールを守って安全歩行・運転。んごうが青でも左右確認(あおいしるし)。

 

【取材班】初めて耳にする標語がありますね。どんな点に留意してお作りになるのですか?

【川村所長】覚えやすい言葉を使って教えるよう心掛けています。地域、地方独自の標語を組み入れることで、大きな効果を上げることができると、私たちは考えています。

川村所長はそうおっしゃいました。地域独自の標語を組み込むことで、地域の安全・安心を生み出そうとする熱意を、川村所長の実直で素朴な言葉の中に、私たちは見出しました。

 

――川村メモ

 

【取材班】警察官になろうという動機についてお訊きしたいのですが・・・。

【川村所長】単純と言われるかもしれません。とても格好良いと思ったんです。小学生の頃の友人に駐在所の息子がいました。そこに遊びにいくうち、彼の父親の制服姿に憧れるようになったのです。それがきっかけです。

 

その後、初志貫徹した川村所長は警察官になりましたが、誰もが陥るように、仕事上で悩んだことも数多くあったといいます。そんなとき、適切なアドバイスを贈ってくれた諸先輩の言葉をメモに書き記してきたそうです。「川村メモ」といっても良いかもしれません。

いまは若手警察官を指導する立場になり、そのメモをフル活用していると笑顔で話してくれました。

 

――交番責任者として心掛けていること

 

【取材班】所長として日頃から心掛けていることがあれば、お教えください。

【川村所長】私のモットーは仕事に関する質問のしやすい、聞きやすい雰囲気や、環境を作ることにあります。

わからないことをそのままにしておくのではなく、わからないことは、それを知っている人にわかるまで聞いて、わかったら、わかったことを必ず学習する――。私は、口酸っぱく指導しています。

また、指示されたことだけでなく、その一歩先を見据え、考えながら行動する大切さも、私はよく話します。「常に3つのことは考えろ」と言っています(笑)。それが実践できた者は、仕事を覚えるのが早くなり、警察官としての技能向上も早いのです。

          立番中の川村警部補

 私たちは、熱心に話す川村所長の姿を目の当たりにして、若手育成にかける彼の情熱の強さを感じられずにはいられませんでした。

 

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「お世話になりました」。私たちは署員の方々とあいさつを交わし、車に乗り込みました。見上げた空は鉛色の雲が低く垂れ込めていました。岩木山に目をやると、雲の中に山頂が隠れています。私の目に、見えないはずの波の荒い日本海の映像が浮かび上がりました。

レールの軋む音が聴こえ始めました。JR弘前駅をゆっくりと離れる電車の窓に小雪が舞い、電車の風圧と風との狭間で、小さな白が散り散りになりました。「もうすぐ、厳しい本当の冬がやってくるんだな」――。

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